【楽】ラクになれなかった少年
このアニメを何度か見たけど、そのたびにいつもおなじモヤモヤが残っちゃって、見終わったあと、
「あー、面白かった♪」
って思えない。
キャラクターはどれも好きなんだけど。
(※この記事はネタバレも含みます)
- アーティスト: マイケル・ジアッチーノ
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主人公のMr.インクレディブルは、フツーの人間とは違う肉体をもつスーパーヒーロー。
スーパーヒーローはほかにもいて、その仲間とつねに世界の平和を守ってた。
でも、あることからスーパーヒーローに対して世間の風当りが強まって、国はスーパーヒーローたちを引退させてフツーの一般人として暮らさせる。
Mr.インクレディブルはかつてのスーパーヒーロー仲間のイラスティガールと結婚して、保険会社のサラリーマンをやりながら、子供3人を育ててた。
でも、Mr.インクレディブルはまたスーパーヒーローに戻りたくて仕方ない。
それをいつも、妻のイラスティガールにたしなめられてた。
そしたらある日突然、スーパーヒーローとしての力が必要だから、って、Mr.インクレディブルはナゾのオファーを受けて、その話に乗っちゃう。
だけどその話は陰謀で、Mr.インクレディブルに恨みを持つシンドロームが、Mr.インクレディブルとその家族を殺そうとして、Mr.インクレディブルは家族ぜんいんスーパーヒーロー化して、そのシンドロームと戦う。
っていうストーリー。
最後はね、Mr.インクレディブル一家が勝つの。
悪者のシンドロームは死んじゃう。
それでハッピーエンド。
シンドロームはとても狡猾な悪者で、そのまま放置してたら世界は暗黒に支配されちゃうからね。
世界をまもるためにスーパーヒーローたちは戦って、勝って、人類の平和を守るからね。
スカッとする話だよね。
って見るべきストーリーなんだろーけど。
スカッとしないんだよね。
すごいモヤモヤだけが残る。
「えー、これディズニーでしょ」って思うと、余計にモヤモヤがモヤる。
悪者のシンドロームは、かつては「インクレディボーイ」って名乗って、インクレディブルとそっくりの格好してた、Mr.インクレディブルの熱狂的ファンの少年。
Mr.インクレディブルに憧れすぎて、どこにでもついてって、Mr.インクレディブルのスーパーヒーローのミッションの邪魔にもなったりして。
それで、Mr.インクレディブルから冷淡な拒絶の言葉を吐かれちゃう。
憧れのヒーローから拒絶された少年は激しいショックに陥って、そのままスーパーヒーローへの憎悪をいだくよーになって、大人になってからMr.インクレディブルに復讐をするの。
シンドロームは、Mr.インクレディブルと対決した時に、自分のその過去の話を聞かせる。
Mr.インクレディブルは、シンドロームが、昔自分と同じ格好してつきまとっていた熱狂的ファンの少年だったとわかるの。
自分の心無い一言が、あの自分を熱愛していた少年を、こんなに憎悪の塊の悪者にしてしまったことに気づくの。
でもねー。
このアニメ、最後はMr.インクレディブルは直接手をくだしたわけじゃないけど、シンドロームを「悪者」にしたまま、死なせちゃうのね。
シンドロームは、熱愛していたスーパーヒーローに、二度殺される。
一度目は、自分の熱狂的好意を冷淡に拒絶された時。
そして二度目は、そのスーパーヒーローの敵として、ほんとーに死に追いやられちゃう。
Mr.インクレディブルは、インクレディボーイに向けた自分の冷淡な拒絶を、結局償うことはなかった。
政府からヒーロー活動を禁じられたあとも世界の平和をまもる、っていうスーパーヒーローでいることにすごい固執し続けたMr.インクレディブルは、その自分の格好よさに強烈に魅せられた少年の憧れを、「邪魔だ」と切り捨てたんだよね。
そのショックからスーパーヒーローへ凄まじい憎悪をいだいて世界の悪の側に立った「元・世界平和を守るスーパーヒーローに憧れた少年」を、立ち直らせれるのは、Mr.インクレディブルしかいなかったのに。
でも、Mr.インクレディブルがまもったのは、自分の家族だけで、スーパーヒーローになりたかった少年の憧れ、じゃない。
仲間になりたがった少年を自分が見捨てて悪役に育て、その悪役と戦って殺して、Mr.インクレディブル自身の平和を取り戻したお話。
堀江貴文さんの言葉を私はここで思い出す。
堀江貴文に聞く【人脈編】:信頼していたビジネスパートナーに裏切られたら - 誠 Biz.ID
ライブドア時代、ビジネスでもっとも信頼していた仲間に裏切られたことがあります。それがあまりに寂しく、「人に裏切られないためには」と考えを巡らせましたが、「許すしかない」という結論に至りました。すなわち、裏切られないように事前の対策を完璧に打つことは不可能だからです。
そもそも、人間はそれぞれに価値観が違うものだから、相手に「裏切ろう」という意思があったのかどうかすら、本当のところは分からない。悪意がないのであれば、「モラルの違い」で済んでしまう話です。要は自分が勝手に信じたのだから、「裏切り」も受け入れるくらいが、バランス的にちょうどいい。
「恨み」というエネルギーは恐ろしく強く、人間の一生を左右しかねない。そのことを考えれば、そうした負の感情に身をゆだねるよりも、「裏切りを許す」あるいは「忘れる」ということが大事です。
もし、インクレディボーイに、この「許す」ということができたら、ぜんぜん違った人生があって、Mr.インクレディブルに復讐して死なずに済んだだろーし、自分の違う「憧れ」の対象を見つけて、それで幸せに生きてたかもしれないよね。
でも、インクレディボーイは、あの時まだ少年だったし、その後、「許す」っていう感覚をつかめないまま大人になっちゃった。
それはとても悲劇だけど。
だけど。
そのあとでもう一度、「許す」っていう感覚を抱けるチャンスはあった、って思う。
それが、シンドロームとして対決したMr.インクレディブルに、「自分はかつてのインクレディボーイだった」と打ち明けた時。
その時に、Mr.インクレディブルが、シンドロームになにをしたら、シンドロームはMr.インクレディブルを「許せた」だろー、って、すごい考える。
シンドロームがMr.インクレディブルを許せるかどーか、の鍵は、Mr.インクレディブルが持ってたんじゃないかな、って思う。
Mr.インクレディブルは、インクレディボーイに自分を許してもらうことができなかった。
それは、
「できなかった」
のかな。
「しなかった」
のかな。
いろんな解釈ができるだろーけど、私は、子供時代に憧れたスーパーヒーローの敵になったまま死んでいったインクレディボーイを救えたのは、そのスーパーヒーローだけだったよー、って悲しく思う。
インクレディボーイの恨みをMr.インクレディブルが解けたなら、ふたりともラクになれたのに。
恨みからラクになれなかった少年が、その自分の恨みに大人になった自分が殺されちゃう。
それを「自業自得」で片づけちゃうにはあまりに理不尽かなー、ってモヤモヤが残ったストーリーだった。